那覇空港から沖縄自動車道を経て車で約2時間。沖縄本島北部、本部町の沖縄美ら海水族館近くにある備瀬エリアは、人気の観光地であり、古き良き沖縄の風景が残された地域。舗装されていない白い砂地が家と家をつなぎ、その小道の両側には、まっすぐに伸びたフクギが並んでいます。豊かに繁った葉と木の枝がアーチとなり、緑のトンネルとなった並木道には優しい木漏れ日が差し込み、水族館周辺の喧騒が嘘のように静かで穏やかな空間が広がります。フクギ並木とその周辺を散策すれば、日常のあわただしさを忘れられるはず。
「福を呼ぶ木」とも言われるフクギ。沖縄では古くから防風林として用いられてきました。備瀬エリアは、集落が碁盤の目のように区画されており、家はフクギに囲まれています。フクギは防風林としてはもちろん、垣根としての役割も持ち、その垣根が連なって、およそ1キロメートルの並木道を作っています。
フクギ並木周辺には、カフェやプチホテル、旅館、沖縄料理を食べられる食堂などが、近年数多くオープンしています。個性的で居心地のいいお店ばかりなのでどのお店がいいか迷ったら、グルメサイトなどの口コミ情報や、お店のホームページなどから情報を収集しておくのがおすすめです。
並木道を満遍なく歩くとかなりの距離があるので、散策には水牛車やレンタサイクルを利用するのもいいでしょう。水牛のゆっくりとしたペースで散策すると、不思議の気持ちが落ち着いてきます。どうしても歩いて周りたい場合は、一部のカフェや宿が独自で発行している備瀬ガイドマップを入手してみてください。周辺情報がわかりやすく掲載されているので、とても便利です。
フクギは、琉球王朝時代の17世紀後半に活躍した政治家の蔡温(さいおん)が、中国で学んだ風水思想を応用して植えたと言われています。とても成長が遅い木なので、苗木を植えた先人たちはその恩恵には与っていないのですが、自分たちのためではなく、子孫や未来の地域を守るために植えられているのです。なかには樹齢260年を超える木々があり、おそらく琉球王朝時代に植えられたものとみられています。当時、集落や国都の造形、山林の管理には、国策として風水を取り入れていたよう。王府は、風水思想にもとづく海岸域から里山にかけての森づくりに力を入れており、その一環として、備瀬集落にフクギが植えられたといわれています。
沖縄は夏に多くの台風が襲来するばかりか、冬は北の季節風が吹き荒れます。300年ほど前の先人たちは、風害に悩まされていた海辺に住む人たちの暮らしを守りながら、風水で気の流れを整えようとフクギを植えたのです。 その風水的な思想が反映されているためか、備瀬集落周辺はパワースポットとしても知られています。特に「備瀬のワルミ」と呼ばれる場所は神聖なスポットとして、長く信仰の対象となっていました。(現在は立ち入り禁止)
たくさんの魅力を持つ備瀬地区ですが、忘れてはいけないのは、集落は生活の場ということです。多くの旅行者が訪れる人気の観光スポットであることと同時に、今でも多くの人が住み、家々が軒を連ねる住宅街なのです。フクギ並木や備瀬の海などの美しい自然を楽しみつつも、家の中をのぞきこまないなどのマナーを守り、住民たちの暮らしに迷惑をかけないよう備瀬部落を散策して欲しいものです。そして、美ら海水族館だけでは味わえない沖縄観光の魅力を、存分に楽しんでくださいね。